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中高年のためのリフォーム術 昭和の営業・セピア色
 
中高年のためのリフォーム術
日々の、障害者や高齢者の住環境整備業務を通じて思うあれこれを綴ることで団塊の世代の応援歌としたい。
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昭和の営業・セピア色
エイヤッ!エイヤッ!エイヤッ!エイヤッ!。

白いシャツ姿で天突き体操をしている営業マン集団を
横目でチラチラ見ながら、駅に続く初夏の坂道を通勤者が早足で歩いています。
毎朝の店内清掃後の体操です。
これから田中君の所属する支店の朝礼が始まります。

(前スレの「売り子としての営業マン」から触発されて、不動産営業マン
 だった知人の田中君から聞いた昔話を思い出しながら書いています。)


田中君が今春入社した会社は、建売住宅の仲介を専門とする販売会社です。
都内及び近県に7社の本支店を持つ、仲介会社としては中堅の会社です。
田中君のいる支店は、環七と中央線が交差する交差点から高円寺駅方向へ
斜路を50mほど登ったところにあります。
支店長の下に課が三つ、それぞれの課長の下に係長二人及び主任二人がいます。
そして、田中君を始めとする平々(ペエペエ)がそれぞれの課に2人。
役職者のほうが平々より多い構成になっています。
その訳はおいおいに。

「エヘンッ!」
店長の朝の訓辞が始まります。連日の飲酒で声が割れ聞きづらいのです。

「山下ー、池袋支店の広告の面積は何平米か?」
(山下)「・・約100坪です。」
「だれが坪で答えろといったかー。何平米かー。」
(山下)「・・・」
「お前は先週その広告で来客したお客で契約したんじゃないか!その位覚えておけ!」
「井上ー、・・いのうえっ!居らんのか!」
「ハイ。」
「居るならさっさと返事をせんか!お前のグラフは今何万か!」
「・・・・」
「まだゼロじゃないか、今月契約予定はあるのか?予定は。」
「月末までには数字を挙げます。」
「もう月半ばだ。そろそろ本気出せ。次長頼むぞ。」

この後は、本社総務からの連絡事項が女性職員から流され
「よろしくお願いします。」唱和で解散。

この三輪支店長さんは顔は怖いのですが浪花節な人物で、とても涙もろいのです。
めったにはありませんが、お客様から社員への感謝のお電話があったりすると
感動で涙ぐみながらその報告をしたりしています。
社長とは古い因縁の方だそうです。

「田中、ブッカク行くぞ。」直属の1課の大山係長から声がかかります。
この会社では、先輩社員に新米社員を付けて二人でチームを組みます。
その新米社員を通常、ヘルプといいます。
本来であれば人ですからヘルパーが本当なんでしょうけど、ここでは
ヘルプと呼ばれます。
田中君は大山係長のヘルプです。

係長は課長席の平島次長に、抑えた声で「次長今日は、ブッカクに行ってきます。」
「オオ、どこ辺りに?」
「狭山湖辺りでいいかなと思っていますが。」
「何人で?」
「あとで林係長たちも合流させようと思っています。」
「分かった。エート、これで。」枚数は分かりませんが、万札がいくらか係長の
手の中に。
(田中君が所属する課は、課長でなく次長がその席にいます。従って次長1課長2が
この支店の実態です。)

様子を横目に田中君は車庫に走ります。
支店から500mほど離れた、線路脇にある野天の社用車駐車場です。
「矢野さん、オハヨースっ。」
田中君は車庫管理の矢野さんに声をかけます。
矢野さんは40才前後の陽気な人ですが、機嫌を損ねたら面倒です。
案内用の車が不調だと折角の案内予定がパアになります。
課の専用車は決まっているので人間関係が良好であれば、案内予定が確実な
土日・祭日の前日には整備をしてくれています。
良好でなければなぜかエンジンが掛からなくなったりするという噂があります。

「案内かい?」
「いいえ、ブッカクだそうです。」
「月半ばにブッカクぅ?課の成績は?」
「予定の半分くらいだと次長は言ってましたが。」
「月半ばで半分なら次長の課なら楽勝だな。どこだと言ってた?」
「最終的には狭山湖辺りらしいですが。」
「OK、大山係長に矢野が団子で良いと言っていたと言っといて。」
「?」

ブッカクは田中君も入社して初めてです。
そも、ブッカクの意味も分かりません。
営業車に乗り込み慎重にエンジンを掛けます。
「アクセルを軽く吹かして・・、すぐに掛からんでもキーは戻すな。」
矢野さんが窓からのぞきながらアドバイスをします。

田中君はまだこのガス車に慣れていません。
ガソリン車と違い、LPガス車は何度も掛け損なっているとLPガスが気化する
際の冷気で途中の部品が凍ってしまい、燃料が流入しなくなります。
これまでも矢野さんにやかんにお湯を沸かしてもらい、お湯をぶっ掛けることで
何度か窮地を逃れています。

今回は矢野さんのアドバイスもあって首尾良くいきました。
支店玄関に車を移動しながら、ブッカクってなんだろう?と
田中君は考えています。

いよいよ田中君の初めてのブッカクが始まります。


スレッドタイトルと内容が一致しない事もままありますので、ホームページに2011年4月までの過去ログの検索ページを設けています。  
 リスト→ http://jukankyo.web.fc2.com/blogl-list2.htm
 当社の業務の有り様については下記記事で。
 http://jukankyou.blog49.fc2.com/blog-entry-218.html
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昭和の営業・セピア色2
「小森主任、青梅街道に出て、所沢の黒田社長の8棟現場を見て砦へ行こうか。」
「はい、黒田現場経由狭山湖、了解しました。」
ハンドルは同じ課の主任である小森さんが握っています。
大山係長は助手席です。両足をグローブボックスに突っ込んだ妙な姿勢です。
田中君と同僚の山下君は後部座席です。

山下君といっても、田中君より10歳年上で小森主任に近い年齢です。
とてもとても真面目な方だそうです。

真面目すぎるエピソードとして、
大山係長と営業に出て、環状七号線の片側3車線の中央よりの車線を走っていたとき、
係長の「ちょっと止まってくれ」の指示でその車線のまま
いきなりブレーキを踏んだそうです。
当然後方からは、後続車の急ブレーキのスリップ音と警笛の嵐だったらしい。
それ以来、山下君と組むときは大山係長が運転します。

「黒田工務店の現場までの案内は田中、お前がやれ。」
「前の6棟現場の続きですから分かりますが?」と小森主任。
「田中の案内図で本人が行き着くかどうか、お試しお試し!」

取引のある工務店の物件情報は新現場ごとに各課に回ってきます。
営業課員はそれを元に、それぞれ個人用の物件カードを作ります。
ベテランの係長でも同じです。

カードのなかに地図を書き込む欄があります。
新人の田中君は最寄の駅から詳細に書き込む必要があります。
曲がり角はゼンリンなどを活用してタバコ屋、パーマ屋などを目印にします。
大山係長の案内図は簡単です。
線が1本引いてあって、○○銀行佐藤さん横の記入しかありません。
佐藤さんは以前契約したお客様です。

ブッカクとは物件確認のことかと納得しながら、田中君が必死で主任に
道案内している間に支店の内容をもう少し。

課長の一人は河内課長、30歳そこそこの若い方です。
右翼的な雰囲気で有名な大学の空手部主将だったそうです。
課員には、気合の入った挨拶を強要します。
お客様が同じフロアーにいらっしゃるときは真に迷惑な課長です。
三輪支店長と話をするときも、しばしば「オスっ!」と言っています。

もう一人の課長さんは、年齢不詳です。
毒島課長さんです。
ちょっと見は60歳くらいに見えたり40歳くらいに見えたりで良く分かりません。
とても小柄でお顔がしわしわなので、蔭での呼び名はバアチャンだそうです。
これまで二度ほど預り金の使い込みがばれて、追放処分を受けています。
それでも課長職に居座っているのがこの会社の不思議さです。

実はこの会社の方々、それぞれすねに傷を持つ方が多いのです。

河内課長は何かの腕力行使的な前科をお持ちです。
毒島課長はお金編のトラブル。
田中君の上司の平島次長は元老舗百貨店のフロアー長でした。
この方はギャンブルです。
競馬中継の時間には隣のラーメン屋に入り浸っています。

毒島課長の課の平田係長。
元は都市銀行の銀座支店の支店長さんです。
小指関係の裁判を抱えています。

河内課長の課の倉持係長。
この方は潜在的にトラブルがお好きなのでしょうか。
小指関係だと奥様が5人いらっしゃいます。
これは真実です。
後日、田中君はそれぞれの奥様にお会いしてご挨拶も済ませます。
法律上の奥様はお一人ですが、それぞれの奥様のお子はすべて
認知または養子縁組しています。
何せ、それぞれの奥様方の実家に同行して挨拶まで済まされています。

身長185cm位、体重は100kは優に超えていると思います。
飲んでいるときに喧嘩があると、うれしそうにそのど真ん中を歩いています。
地元の地回りには迷惑がられている係長です。

ようやく黒田工務店の現場に着きました。周りは水の張られた水田地帯です。

必死で案内した田中君、汗びっしょりです。
「小森主任、なか案内してやってくれ。おれはもう少し寝る。」
田中君には初めての建売現場です。
キョロキョロしながら主任の後ろを付いて行きます。
「田中、鍵あいているか?」
しっかり鍵が掛かっています。
「黒田社長のところはいつもこの辺に鍵を置いてあるから。」
水道のメーターボックスを開けると封筒があります。
「帰りはしっかり鍵を掛けて同じところに戻す。いいな!」
「はい。」

建物の中に入ります。
新築独特というか、薬品や接着剤の臭いがします。
「臭いだろ。暑いときにはもっと臭いが強くなる。そうすると
客に良い感度が出ない。」
「はい。」
「だからヘルプは一番先に家に入って、窓をすべて開けまくる。
その間、接客している方は外回りや環境を見せて時間を稼いでいるから。」
「はい。」

「山下、洋間を歩いて回れ。」
山下君が6畳の洋間をあちこちと歩いています。
「何か気がついたか。田中、お前はどうか?」
二人して懸命に考えますが分かりません。
「今度は田中、お前が歩け。」
田中君が慎重に歩きます。

「主任分かりました。床鳴りするところがあります。」
「よし、そうしたら案内のときはどうしたら善いか。」
田中君と山下君は顔を見合わせるばかりです。
「案内のときは、ヘルプがそこに立って客を歩かせないようにしろ。」
田中君は少し疑問を持ちましたが、とりあえず山下君と声を合わせて「はい。」
と答えました。
その後いくつかの注意事項を教えてもらって主任以下、車に戻りました。

「林たちが先に着いているかもしらん、真っ直ぐ砦に行こう。」
今度は田中君が運転手です。
運転しながら助手席の大山係長に質問します。
「係長、さっきの現場の床鳴りは工務店に連絡しなくていいのですか?」
「あ、いい。」
「だけど、直しておけば営業的な心配をしなくて済むんじゃないですか?」

「あの現場はウチだけが仲介に入っているわけじゃない。それは分かるな?
確かに連絡をもらえば有難いと思うかもしれんが、それが再々になると、
あの仲介会社は売ってもくれないでクレームばかり言ってくる。
面倒な会社だと思うかもしれない。
だけど客を付けてから、契約する前に、実はこういう状況にあるので補修願いたいと連絡すれば
即補修をしてくれる。
そして工務店からすれば、そういう欠点があるにもかかわらず気を配って売ってくれた有難い
会社だということになるのじゃないか。
まあ、いろいろは向こうに着いてから。」

(なんだ、いろいろって)心の中でつぶやく田中君です。


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昭和の営業・セピア色3
砦というのは、狭山湖そばのお休み処でした。
丸太を組んだ山賊の館風の建物です。
林係長達は、もう着いています。
”達”の中には3課の倉持係長も含まれています。
建物に入ると、奥に長い土間の左右に小部屋が並んでいます。
入り口近くの、炉を切った8畳ほどの部屋に落ち着きました。

「今日から、田中くんが正式に1課のメンバーになりましたので歓迎会を兼ねての
ブッカクということにしました。
3課のクラちゃんもいるけど、いつもこのメンバーで仕事を回すことが多いので
今日は参加してもらったわけです。」

大山係長の乾杯の挨拶で宴会が始まりました。
そのあと田中君の自己紹介から始まって、順次自己紹介を行いました。

抜粋
大山係長-40歳 倉持係長の紹介だと社内NO.1の営業マンだそうです。
     これは後日証明されました。
     酒豪またはアル中かも。
     痔もち。

倉持係長-なんと29歳! 30前にして多妻多子。
     低額物件にやたら強く、最初の接客で販売物件を確定し、課長に
     契約書を作っておいてくださいと言い残して案内に出るという
     離れ業を持っているそうです。
     痔もち。

林係長 -軽薄な感じの都会ボーイというタイプです。
     ずいぶん年上かと思っていたら田中君と同じ年。

小森主任-35歳 数少ないと思われる堅気なまじめ社員。

山下君 -シャッターといえばその代名詞になる会社にお勤めでした。
     後日その会社の方が顧客になったとき、山下君の話がでて
     山下さんは神様のような人でしたと感動されていたそうです。

田中君 -会社ではじめて行った新卒大量雇用65人の一人。
     しかし田中君が退社の際は、同期は3人しか残っていませんでした。

「田中、帰りは小森主任と林係長が運転するから心配しないで飲め。二人とも下戸だから。
そのためにウチの課に引っ張ったようなもんだ。まあ、それは冗談だけど
今日は実際の物件確認もお前のためにやったが、いつもはブッカクといえばこうした
飲み会がほとんど、物件の確認は自分で案内の帰りや休日にやらなきゃいかん。」

倉持係長「キミの課はいつも月前半は遊び・・というかノンビリして、後半から一気に
勝負を掛けるパターンでやっている。次長の方針だな。
営業学ぶなら良い課だし、良い係長の下に付いたよ。」
この係長の呼びかけはいつも「キミ」でした、「お前」とか呼ぶことはその後も
一度もありませんでした。

「給与関係については支店長からも話があったと思うけど、本当のところを話しておこう。」
大山係長がコップ片手に解説をしてくれます。
ちなみに中身はビールではありません。日本酒です。

以下抜粋。
給与-今月までは全額固定給。
   来月から固定給と歩合だが、固定給はアパート代と交通費くらいにしかならないとのこと。
   したがって契約を挙げて歩合給を増やさないと暮らせない。
   主任等役付きになると固定給もなし。役付きが多いわけです。

歩合-契約が成立(手付金が入金)した時点で評価(棒グラフに掲示)し、歩合に反映される。
   ただし、後日契約が破棄された場合は、その月のグラフから減算する。

グラフ-毎月の、成約した物件の売上金額で表示される。
   仲介手数料は金額に3%掛ける6万円と覚えればよい。1,000万のとき36万円
   それを買い手と売り手双方からもらうので×2となる。72万円。

歩合給-仲介手数料の1/3が自分の取り分だと思えばよい。
    (1,000万の売上×3%+6万)×2=72万円 ×1/3=22万円弱

「通常、二人で営業するから売上は二人で分けることになる。
おれ(大山係長)の客を俺が来客させてヘルプでお前を使って契約した場合、
俺が80%、お前は20%になる。
しかし、お前の客をお前が来客させてヘルプで動いて契約した場合は折半にしている、おれは。」

「大山さんは折半してくれるが、他の先輩はいいとこ30%くらいがほとんどかな。
おれのヘルプをしてくれたときも同じく折半にするから。」と倉持係長。

その後は、どこにでもある上司や会社の悪口のやり取りに移りました。
しかし内容は田中君の目が点になる話題ばかりでした。

夕方5時帰社、そのまま駐車場での洗車指示。
要は、机で寝るな車の中で酔いを醒ませということのようです。
いよいよ明日から田中君の営業マン生活が始まります。


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昭和の営業・セピア色4
「今日の案内予定は、大山係長2件林係長小森主任それぞれ1件の計4件となってる。
取りこぼしのないように頑張ってくれ。」
全体朝礼後、各課朝礼の際の平島次長のお話です。

「田中、今日朝の一番はおれのヘルプに付け。」
「はいっ。」
いよいよ、田中君初めての営業活動です。係長のお客さん案内のヘルプですが。

「見えた。」大山係長が上着のボタンを留めながら玄関フロアーに出て行きます。
初老のご夫婦お二人です。
係長はお二人を、2階フロアーの方へ手でうながして席に戻ってきます。
「おい田中、接客してて。」
「はいっ。」

2階フロアーへの階段を登っているお客様の後ろを追いかけます。
すばやくあいているテーブルを見つけ案内します。
すでに7テーブルの半分くらいは埋まっています。
「お待ちください。お茶をお持ちします。」

給湯室は混雑しています。
同じ時間に来社時間を決めるものですから混んでしまいます。

茶たくに乗せてお茶をお出しします。
「天気が良くてよろしかったですね。」
「本当に。」
「今日は電車でおいでですか。」
「はい。」
 ・・・・・
田中君、次の話題が出てきません。
のどがカラカラになっています。
 ・・・・
「ちょっと下を見てきます。」

大山係長は、3課の倉持係長となにか冗談を言い合っている様子です。
「係長まだ上がりませんか?」
「おう、案内物件の在庫確認を待っているところだ。返事が来たら上がるから
もうちょっと接客していてくれ。」そういいながら倉持係長と雑談を始めます。

接客テーブルに戻ったものの、何を言ってよいか分かりません。
仕方なく研修で教わった会社の概要を説明し始めました。
この人は何を言っているのだろうと思っているに違いないと、思うとますます
緊張してきます。
田中君が、もう限界だもう一回下に行ってと立ち上がろうとした時
「やあやあ、朝早くから申し訳ありませんでした。」
やっと係長が来てくれました。
係長がものすごく頼もしく思えた瞬間でした。

「エーとね、セドを持ってきて、燃料確認してね。」
田中君、車両駐車場に懸命に走っていきます。

車両係りの矢野さんに鍵をもらいます。
「セドリックにしろといわれました。」
「あー、こっちのクラウンは時々ギアが入りにくいからだろ。新人だからね。」
「燃料の確認はどこでするんですか?」
矢野さんがトランクを開けてボンベを見せてくれます。
「この小さなのぞき窓で確認するしかない。ガソリンと違ってガスは
どこでも給油というわけにはいかないからな。気をつけろよ。
とりあえずはほぼ満タンだ。OKー。」

支店の玄関前には、すでに2台案内車が待機しています。
その後ろに付けました。

待つほどもなく係長を先頭にドアから出てこられました。
「とりあえず青梅街道に出て、後はその都度指示するから。」

出来るだけスムーズな運転を心掛けながら、田中君の耳はダンボ状態です。

予算は1200万位、中央線沿線希望、敷地面積50坪前後
出来たら5LDK位の間取りがあれば。
そんなに古くなければ中古でも良い。

大山係長はうなずきながら聞いています。
「エーと田中君、その先の信号を右に入って。」
少しいりこんだところに、売り家の看板が掛かったお家があります。
かなり古い住宅です。

「このお宅がですね、遠いですけど国立の駅までバス便があります。
敷地は私道負担込みで約28坪位です。1300万台で売りに出ています。」
お二人の様子を見ると半分がっかり半分怒ったようなお顔です。
おうちの中も煤ぼっていて暗い感じです。
面積は少ないし建物もかなり古い、これじゃお客さんも気に入らないなーと
田中君も納得です。
大山係長も強いてお勧めしません。

次に所沢市の建売住宅現場に着きました。
敷地もさっきよりだいぶ広いみたいです。
何より新築ですから見栄えが良い。田中君もなんだかうれしくなりました。
教わった通り、先に入って窓をばたばたと開けて回ります。
洋間を歩いても床鳴りはしないようです。

「敷地面積はどのくらいなんですか?」お客様から積極的に質問が出ます。
「私道負担込みで35坪位ですね。」
「意外と広く感じるけどそんなもんなんだ。」お二人で頷きあっています。
「利用駅はどこなんですか・」
「西武線の所沢です。歩いたらちょっと遠いですね。バス利用になると思います。」
「間取りはいいんだけど駅がねー。」と奥様。
「僕が辛抱すればいいんだから、ちなみにお値段は?」
「1350万です。」と係長。
「やっぱり良いものはそれ位するのね。もうちょっと希望を考え直さないと。」

帰りの車中ではお二人で、大山係長に、とても勉強になったことを感謝されています。
「いえいえ、とんでもありません。また良い物件が出ましたらご連絡いたしますので
これに懲りずお出かけください。」
田中君も、残念だけど次につながる営業だなと緊張をほぐして聞いています。

「帰社することを次長に連絡するから電話があったら止めて。」と係長。
電話ボックスで停車、係長がダイヤルし始めます。
電話は終わったようですが、あたふたとして車に戻ってきます。
「エーとですね、先週仮の売止めになっていた建物がまだ正式に契約に
なっていないそうなんです。
解約になるかもしれないから見ておいてくれとのことですが、このままご一緒に
そちらに回ってもよろしいですか?」
「この後予定も別にないし、この際勉強にもなるし、かまわないよな。」とご主人が
奥様に同意を求めます。

田中君はこの辺りで?と考え始めましたが、先週の物件はまだ彼の物件カードには
記載されていないことに気がつきました。

係長の案内で現地に到着しました。
「この建物ですね。入ってみますか?」係長が先頭で入っていきます。
ここは案内予定の物件ではないので、田中君はのんびり最後尾で入っていきます。
「田中君、一応窓を開けてみて。」

心なしか係長の案内もゆったりとしています。
「敷地面積は広いんでしょうね?」
「いえ、先ほどとほぼ一緒です。」
「利用駅も同じですか?」
「同じですけど、こちらは駅まで歩いて10分ちょっとですね。」
「建物の作りもさっきよりずいぶんしっかりしているし、お値段も相当するのでしょう?」
「エーと、1220万円で売り出されていましたね。」

「エーッ!」田中君が出した声かお客様が出した声か分かりません。
いわゆる異口同音ということでしょう。

田中君もあせりましたが、お客様はもっとあせっています。
「これはだめなんですか!私たちにはだめなんですか!」

田中君も思っています、係長何とかしてあげてください。
僕の初めての営業経験なんです。

さて。


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昭和の営業・セピア色5
「どこかよその会社なんですか?売止めをしているのは。」と田中君。
ご夫婦のお宅の方へ真っ直ぐお送りしている車中です。

それには答えず後部座席を振り向いて大山係長、
「売止めというのは、購入を前向きに検討しているので若干時間を
くださいという意味なんです。
当社の渋谷支店のお客様のようです。」

「だけど、やっぱり決まっちゃうんでしょうね。」と奥様。
・・・しばらくの沈黙。

「ボックスがあったら止めて。」と係長の落ち着いた声です。

電話を終えて戻ってきた係長がドアを開けたままでお客様に、「直接、渋谷店に
行ってみましょうか。行ってみないと分かりませんが。」
お客様も田中君も、「ハイ、??」の状態です。

車中の係長の説明を聞いて、ようやく合点がいったお客さまと田中君です。

説明要約
・売り止めしたお客様の返事が遅く、渋谷店としても解約では売主に面子が立たない。
・今日、ご両親を伴って再見学の約束だがまだお見えになっていない。
・来店を約束した時間にお見えでなければ、止めていた期間が過ぎたため手付金を
 用意した他のお客様に権利が移ったと言える。

「来店のお約束は4時だそうです。あと2時間くらいありますが、どうされますか。」
後部座席で顔を寄せて、小さな声で打ち合わせるご夫婦。
「ダメで元々でしょう。もしかするとが有るんなら当然やってみるべき。」と
いらいらしながら心の中で叫ぶ田中君。

意を決したように奥様から、「あのー、万がいち今日契約が出来る場合の手付金は、
どの位用意しておけばよいのでしょう?」と係長と田中君の両方の顔を見ながら
思いがけず強い口調で。

「今日は手付金でなく証拠金として10万円もあれば良いと思います。正式契約のときは
物件価格の1割が手付金になりますから。」

渋谷店の接客室です。
同期の新人が、神妙な顔をして田中君にもお茶を出してくれます。
お客様のお宅に寄って、銀行を経由して渋谷支店に着いたばかりです。
係長は下のフロアーで渋谷支店長と打ち合わせをしています。

半日一緒に行動して感動も同じくしたためか、今は田中君も緊張せずお話しが出来ています。
ただし、「物件の話は一切するな!」と係長から釘を刺されているためご主人の趣味である
バイクの話に終始しています。
もっとも物件の話など、薬にしたくても持ち合わせの無い田中君です。
奥様は何度も時計を見ています。所定の4時が過ぎるのを緊張して待っているようです。

渋谷支店での仮契約が無事済んで、お客様を駅までお送りしたのが夕方6時でした。
高円寺支店の駐車場に営業車を入れて、田中君が支店に戻ったのは7時前です。

係長と次長が談笑しています。
田中君が課の机に戻ったのを見て、「田中君、お疲れさん。ご苦労様。」
と次長が声を掛けてくれました。
「田中、いいヘルプだったぞ。」係長も笑いながら声を掛けます。
「仕事をするってこうゆう事か、気持ち良いもんだなー。」自然に笑いがこぼれてきます。

「せっかくだから、今日は課の正式の歓迎会をする。大勝に今から移動!」と次長が
全員に声を掛けます。
今日は小森主任の案内もうまくいったそうです。

寿司処、大勝です。
次長の乾杯の音頭で始まりました。

大山係長、「いやー、今日は田中がびんびん感度を出すもんだから客も乗せられて
あっという間だった。途中あんまりぴったりなんで演技過剰かと心配した。」
田中君「??」

「本当はもう1件対象を回る予定だったが、感度が出すぎてもいかんのですぐに本命に
回ったんだ。」
小森主任や林係長はニコニコして頷いています。
田中君「??」

隣に座った下戸の小森主任が、田中君のコップにビールを注ぎながら解説してくれます。

・今日のお客様の希望する物件など、どこを探して絶対ありえないこと。
・しかし、大半のお客様は漠然と同じような感覚をもっていること。
・現実を直視して学習してもらわなければ、いつまで経っても購入できないこと。
・「対象」とは、実際にその方に勧める物件を引き立たせるための物件。
・「本命」は当然その方に勧める物件。

小森主任、「だから、係長が案内した中古住宅1件、新築1件はそれぞれ対象物件だ。
最後に見せた新築が、今日の案内の本命物件だったということ。」

いまだ状況が良く分からない田中君、「エーと、それじゃ渋谷店で仮契約した
新築は最初から本命だったんですか?だけど案内の途中からしか情報は来なかったんだし
もし売止めしているお客さんが購入を決めたら案内が無駄になるんじゃないですか?」

ニコニコしている、田中君以外のみんな。
林係長、「だからな、渋谷店の売止めの話は最初から無いの。今日は対象~対象~本命の
ベーシックな案内コースだったということ。」

このあと、田中君が悪酔いする話がまだまだ続くのです。


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昭和の営業・セピア色6
お酒のせいで多少大胆になった田中君、カラミ加減で大山係長に言います。
「仮契約した新築は本当にいい物件でした。最初からあそこに行けば
良かったんじゃないですか?」

「最初に見た中古の物件は覚えてるか?」
「はい。エーと、私道込みで28坪。」

「金額は?」
「たしか、1300万台です。」
「あの中古は、本当は900万だ。」
「エッー!」

「次の新築は?」
「1350万円でした。
「あれは、1100万。」
「エッー!」

「それじゃ最後の新築も本当は違うんですか?」
「あれは本来の価格で見せた。」

次長が言います。
「田中君、1220万の物件をそのまま今日のお客さまに見せても、もともと中央線沿線で50坪
位の現実離れした希望で来ておられるのだから、沿線が違う・敷地面積が違う、
で見にも行かないでしょう。
こういう手法で案内したからこそ、本来の値段のものが輝いて見えた。
君もお客さんと一緒に感動したんじゃないの。
営業に慣れるに従ってそういう感性も無くしていくもんだ。
今日の感動をいつまでも覚えておけば、必ず営業に役立つからね。」

「タナカよー、無いもんを売った訳じゃない。今の相場でこのお客さんに一番合う物件を
プロの俺が探して案内したんだ。
今回決められなかったら、あのお客さんに、次に購買意欲が出るのはずっと後に
なるかも知れん。そんときはあれと同じ条件の物件はもう手に入らないぞ。」
と大山係長。

田中君の初営業の夜は、酔いと混乱でぐちゃぐちゃです。
だけど田中君の試練は、まだまだ続きます。


スレッドタイトルと内容が一致しない事もままありますので、ホームページに2011年4月までの過去ログの検索ページを設けています。  
 リスト→ http://jukankyo.web.fc2.com/blogl-list2.htm
 当社の業務の有り様については下記記事で。
 http://jukankyou.blog49.fc2.com/blog-entry-218.html
昭和の営業・セピア色7
(怒涛の書き込みが続いています。”式台”や”手すりの取り付け”などで検索されて
 このブログに来られた方は、違うジャンルかと戸惑われているかと思います。
 いつかは、知人の田中君の経験を記録しておきたいと思っておりました。
 もう少しお付き合いください。)


初の案内から1ヶ月が経ちました。
渋谷店で仮契約したお客様も、契約が完了し工務店サイドに業務が移っています。

その契約金額の20%分やその他のヘルプで、田中君の先月のグラフも400万円ほどに
赤い棒グラフが伸びていました。
ただし、その月までは田中君は固定給ということで、次長の判断で最終的にはその売上は
他の課員に分配されています。

毎月始めに、女子社員が手作りのグラフ用紙をロッカー後ろに貼ります。
営業マンの1ヶ月の奮闘が赤い棒となって日々上に上っていきます。

最終営業日(要は月末)は、各課長さんはとても忙しくしています。
どの課が店内で売上1位になるか、全店ではどこの課が1位か
はたまた店としてはどこが、そうした情報のやりとりです。

最終日の夜中の12時までに手付金を預った契約が、その月の売上として認められます。
本社への現金入金は翌月1日の午前中までとなっています。

ここで各課の長の駆け引きが始まります。
トップを狙う課長はぎりぎりの数字でトップをさらいたいと考えています。
余力(数字)は翌月に回したい。
手付金を預って正式に契約が挙がっている契約も、いまだ手付金未収と申告すれば
翌月の契約として申告できます。

虚虚実実の駆け引きです。当然そこには長としての評価(報酬)が懸かっています。
この辺りに毒島課長の事件の芽があります。
直属に銀行出身の平田係長が配属されているのは偶然ではありません。

年間8割は平島次長の課がトップを取っているようです。
本社の契約管理課との密接度が他の課長さんたちとはまったく違うという噂です。

一方課員は、おおよそ自分の今月の成績は分かっているので、いまさらという感じです。
三々五々時間を見計らって支店に帰ってきます。
契約が最終日になって、もつれている課を除いてやれやれという感じです。

せっかく積み上げた赤線グラフも、明日の朝出勤したらまたゼロからのスタートです。
真っ白いグラフを目にした時のストレスは、営業マンでないと分からんと田中君は言います。
酒でも飲まなければやっていられません。

夕方7時以降は、平日でも店内での飲酒が黙認されているようです。
だれかれの机をかまわず開けて、つまみを取り出しています。
ましてや今日は〆(シメ)の日です。

田中君が帰ってくると、通用口にビールのケースとダルマの箱が天井一杯積み上げられています。
「小森主任、これはなんですか?あした、棟上でもあるんですか?」
「うん、これは工務店から提供のシメ用の酒。全部飲み終わらないと帰れないから。
しっかり飲んで。」
課の机の上にはつまみが山になっています。

「おう田中君、お疲れさん」、次長はすでに赤い顔です。

9時になりました。シャッターが閉められます。
ほぼ全員が帰社しています。
三輪店長のシメの挨拶です。「・・・ということだからしっかり飲んで憂さを晴らしたら
明日からまた・・」終わるや否や軍艦マーチから始まります。

8トラックのカセットが突っ込まれ、各自歌の披露が始まります。
拍子は手拍子でなくガンガンです。
課長や次長の机の引き出しの扉が、ビール瓶でガンガン叩かれています。
来店したお客様から見えない引き出しの扉が、でこぼこになっているわけが
ようやく分かりました。

絵にも描けない♪、すごい風景は割愛。

翌日、店内はすさまじいことになっています。
二階の接客フロアーには、そのまま泊り込んだ営業マンが寝ています。
二日酔いの頭を押さえながら大掃除です。
リースの植木が鉢から引き抜かれて散乱しています。
しかし、なんといってもその匂い。
したがって、この日に案内予定を組むことはどの課もありません。
大掃除がすんだところで皆さんサウナへ直行です。
田中君もここに入社して初めてサウナを経験しました。

この切り替えがあってこそ、またゼロからのスタートが切れるのかと
田中君も思っています。

しかし、これが毎月末ですか。


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昭和の営業・セピア色8
ガススタンドの周りの木々でせみが鳴いています。
初夏になりました。

営業車のガス入れにも慣れてきた田中君です。
順番待ちのタクシーに挟まれてバックで並んでいます。
タンクに流し込む石油給油と違い、LPガスの給油?は独特です。

バックで装置に近づき、ナンバープレート裏のコックに自分でガスホースをつなぎます。
このホースがごく短いので、バックでのアプローチには慣れが必要です。
つなぐ時もはずすときもプシュツ、プシュツと音がします。
家庭用のガスほど強くはありませんが、ガス独特の香りがそこら中に漂います。
給油?量は目検討です。
トランクに鎮座するガスボンベの小さなのぞき窓、この小窓に液化したガスが見えればOKです。

順番待ちしながら田中君は、数日前の案内を思い出しています。
5回目の訪問でようやく案内に引っ張り出せた田中君のお客さまです。
田中君としては初めての高額物件のお客様でした。

1000万円までを低額物件、1500万を超えると高額物件といっています。
1000~1500万円までは特に呼び名はありません。
扱う物件は、原則新築の建売です。
2000万を超える建売は販売できなかった場合のリスクが高いので、業者もめったに
企画しません。

今回案内した物件は、世田谷の古い邸宅を分割した土地に建てた建売です。
脇役専門でしたが、有名な女優さんのお住まいでした。
2300~2500万の4区画に分割して販売されました。

自分のお客様ですから、案内コースは田中君が組まなければなりません。
まだ厚みの薄い田中君の物件カードに、高額物件のデータなど1件もありません。
この支店で高額物件といえば、毒島課長のところの平田係長です。
低額物件の最右翼が倉持係長なら高額は平田係長。

次長を通じて、営業のお願いをします。
「日曜日の何時、10時から?大丈夫ですよ。空いてます。」
田中君と打ち合わせをします。

・予算は 2300万前後
・勤務先 商社系の繊維会社 一部上場
・希望  中古物件 とにかく土地を広く
      建売不可
・地域  23区内 より都心に近い場所

「それで来店なの、駅待ちなの?」
「吉祥寺駅10時待ち合わせです。」
「フーン、駅待ちかー?分かった、準備しておくから前日に案内の再確認をしてね。」

「初めてお目にかかります。今日ご案内させていただく平田です。」
駅近くに止めた営業車内で平田係長が名刺を渡します。
名刺には「営業課長 平田・・」と書かれています。
元銀行支店長の平田係長です。
これが店長の肩書きであってもなんら違和感はありません。

平田課長?の言われるままハンドを握る田中君です。

1件目 中古物件
2件目 中古物件
3件目 建売
4件目 建売
5件目 中古物件

「それではお返事をお待ちしております。」、吉祥寺駅。
平田課長、最敬礼でお見送り。

「係長、有難うございました。お疲れ様でした。」
「いや、お疲れさん。案内物件が多かったから疲れただろう。」
支店に帰る車中での会話です。
かれこれ6時間ほどの案内でした。

「あのー係長、本命は最後の中古物件ですか?」
「どうしてそう思う?」
「いえ、それまであまり案内物件の売込みをされなかったのに、最後の中古物件のときは
結構あれこれ売り込んでいたようでしたから?」

係長による今日の案内の解説です。
・駅待ちで案内を受けるお客様には、
 入店することで勧められた物件を断りにくくなるのではとおびえるタイプと
 まだまだ本気でなく、さらっと案内させて情報だけ収集すればよいとするタイプがある。
 今日の客は後のタイプ。
(だから、案内件数を増やした。)

・1件目と2件目の中古別件はそれぞれ欠点があった。
 素人が中古物件から掘り出し物をと思っても、プロが噛んでいる以上そんな甘い話は無い。
 それを分かってもらうための物件だった。
 こちらからはあえてその点は話さなかったが、自覚されるように仕向けた。
(プライドを傷つけないこと)

・3件目の新築は場所は良くないが、建物はそこそこの2000万の物件だった。
(新築も悪くないと思ってもらう)

・4件目が本命。

・最後の中古物件は、本来の中古でというお客様のご希望を忘れていませんよということと
 4件目を勧めているのではないというポーズを示すため。

「今日のお客さんは、
”案内してくれた課長は、最後の中古物件をあれこれ言って勧めていたが
冷静に判断すれば、私は4件目のあの新築がベストだと思っている。”
とか話していると思うよ。」

「高額のお客さんの場合、不動産の営業マンに説得されて購買を決めたというより
自分の知識・判断力で自分が決めたと思わせることが大事なんだ。
田中君はどのお客さんより若いんだから、説得じゃなく上手に情報をお客に渡して、自分が決断した
と思わせる営業をしたほうが良いね。」

案内のお客様は、4区画のうちの2300万の物件を契約されました。
有名な女優さんの邸宅だったというのもプライドをくすぐったようです。

本当に営業は奥が深い。
しかし、まだまだ本当の深さを覗ききれていない田中君でした。


スレッドタイトルと内容が一致しない事もままありますので、ホームページに2011年4月までの過去ログの検索ページを設けています。  
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昭和の営業・セピア色9
「とんでもない奴がいる!」
朝礼中の支店内に、三輪店長のだみ声が響きます。
田中君たち新人は、何がなんだか分かりません。
先輩社員たちは情報を持っているらしく、神妙に店長の話を聞いています。

各支店毎の広告を新聞に掲載しているのですが、池袋支店の花形広告を
売っちゃった営業がいるらしいのです。
本来販売するための広告のはずですが、現実には集客のための広告媒体として
物件が掲載されています。
もちろん存在しないおとり物件を掲載すれば犯罪です。

すごく心を引かれる。
是非見てみたい。
とても購買意欲をそそられる。
そして、現実に売り物である。
しかし、現物を見たらとても買う気にならない。
それが池袋支店の広告物件です。

・築35 木平 6/6/4.5/台 335㎡私込 
 ・・駅 歩30 バ停10 介
 1,015万

分かりやすく書き直すと
・築35年経過の木造平屋建て 間取り 6畳 6畳 4.5畳 台所
・敷地面積 私道負担込み335㎡(約100坪)
・駅(西部線)徒歩30分 最寄のバス停留所まで徒歩10分
・仲介物件
・価格 1015万円

なぜこの広告が花形なのか。

この広告に反応する顧客は、沿線にはこだわっていない。
建物の在り様にもこだわらない。
交通の便が悪くともかまわない。
ひたすら面積の大きな物件(掘り出し物)を望んでいる。

顧客評価としては、不動産相場に初心(うぶ)な顧客であることが明白なのです。
営業としては、面積へのこだわりだけ修正すれば良いというお客様です。
この金額であれば、もっと交通の便が良くて間取りのしっかりした物件が買えます。
そして、この西部線沿線には1000万前後の建売がたくさんあるのです。

この広告で来社した顧客は、かなりの確立で案内即契約となっています。
この広告を収集してきた池袋店の営業マンには、どの支店であっても、その広告で来社契約した
売上の3%が自動的にグラフに配分されています。

田中君も何度か、この物件で来社したお客様を案内しました。
毎回、初めて来た顔で案内します。

延々と巾1mもない私道を、グダグダと下っていきます。
売り家の看板が出ています、間違いなくこの家です。
敷地は十数坪も有るでしょうか?
おまけに家は目もくらむほどの断崖絶壁に建っています。
よくもまあ、こんな広告物件を探してきたものです。

10日ほどすると、この広告復活していました。
本社で何とかしたのでしょう。
売っちゃった営業マンは当然・・・。

田中君も何度か、ブッシュウ(広告物件収集)に出されました。
街の不動産屋さんを廻って、扱わせてもらえる物件を収集して廻るのです。
しかし、田中君の会社が広告物件を集めようとしていることは業界では
すでに周知のことですし、自分のところで売れる優良物件を
廻してくれるはずがありません。
要は、営業力の訓練が主目的のようです。

その土曜日、田中君は案内予定がありませんでした。
”華の土曜日”に予定がないのは、席にいても針のむしろです。
次長の温情かどうか、ブッシュウで外に出されました。
田中君も、不動産店舗の訪問にかなり慣れてきています。
建物の見た目と会社名で、不動産関係と見当が付くようになっています。

ガラス戸に、・・商事、
「お世話になります。○○株式会社と申します。何か私どもで・・」
引き戸を開けるや否や、頭を下げながら挨拶をします。
「何か私どもで・・?」
挨拶をしながら徐々に頭を上げていきます。

正面にソファーセット。
足を広げて座っている数人のお兄さん方。
上方には大きな神棚とずらり並んだ弓張り提灯。

田中君、一瞬にして状況を読み取りました。
相手も一瞬「あん?」。

田中君、火事場の馬鹿力?やけくそ?
「当社は不動産を扱う会社ですが、こちら様で扱っている物件で・・」
頭に浮かんでくる言葉を必死でつないでいきます。
「よろしくお願いいたします。」と締めの言葉。
もう頭の中には、何も浮かんできません。

ソファーの真ん中に座ったお兄さんが、
「兄ちゃん、残念やけどあんたんとこに預けられるもんはない。名刺でも置いてって。」
と言った様な気がします。

どうやって、そこを出てきたか覚えていません。
駅までの道、足がギクシャクしていたことだけはしっかり覚えている田中君です。


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昭和の営業・セピア色10
<昭和の営業・セピア色> たちまち10スレッドになってしまいました。
実は、田中君から聞いていたエピソードはまだまだあります。
・歩合給などあてにしていない先輩諸氏
・毎週、高速道路を飛ばす社長で係長?
・兄ちゃん売れたか
・本家の納屋より狭い
・たらしの芝さん、暇つぶしの契約
・クラさんの6番目の・・。
・ポン刀を持って支店周りの社長
・オマーン国族長接待
・ポケットチーフに包まれたダイヤモンド
・内部監察員の暗躍
・毒島課長、また逃走
・警察からトラ箱修理代請求が
・げた履きでリムジン
・別荘地販売のアルバイト

(項目を書いていても、本当に漫画みたいな世界だなと思います。
一旦この回で記録の筆をおいて、折があればまた書いてみたいと思います。)


つまる所、田中君のいた会社の営業方法は、
真っ赤にさびた鉄の塊800gを、1kgですといって持たせる。-対象物件
また別の形のさびた塊800gを、やはり1kgですと持たせる。-対象物件

次に、ぴかぴかの鉄の塊1kgを1kgですと持たせる。-本命物件
    <ズシンと手にくる重みと輝き。>
              
錯覚を利用したマジックです。
対象物件をそのまま売れば違法です。
本命物件を本来の価格で売る分には、事後何の問題もありません。

マジックは一晩で醒めます。
案内した翌日、店内に響く朝礼時の電話-受付女子職員、「・・さん、お客様からお電話です。」
だれ、誰の名を呼んだ?

毎年年賀状をやり取りする、当時のお客様がいるそうです。
ローン借り入れに年収が足らず、田中君の知り合いの会社で源泉徴収票を・・。
そんなことも出来た時代だったそうです。
買っていただいたのは、所沢駅へバス便の、水田に囲まれた建売群の1棟です。
今、思いもかけず大きな資産を形成できたと喜んでいるそうです。

今の時代、机に座ったままインターネットで様々な情報が得られます。
ネットサーフィンを続けるうちに、いっぱしの情報通になった気がします。
過大な夢は自分で修正していきます。
営業会社はその”情報通のお客様”の希望に沿った商品をお見せします。
データが合えば買わない理由はありません。

通信手段がポケベルと公衆電話、昭和時代の営業マン。
相場を無視した客の、夢壊しから営業が始まります。
品物を陳列してお選び下さいでは、まとまりません。
勢い、過激とも思われる手法が必要とされたのだと思います。

時代です。

それでも、<天突き体操をする営業マン達のセピア色の残像>に
ロマンを感じてしまう”ぼくと”です。

長々とお付き合い有難うございました。


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釣 書(つりがき)

いもがらぼくと

Author:いもがらぼくと
「城山の鐘 なりいでぬ 幼なかりし・・」城下町・宮崎県延岡市の地で、疾患を持たれた高齢者の住環境整備や老後に備えたリフォームを専門とした建築会社「住環境デザイン社」を経営しています。

年齢は団塊世代の末席。
趣味は「釣り道具の手入れ?」としておきます。



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